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研究

営業秘密管理

 近年、大学では、教職員が創出した特許出願前(未公開)の研究成果や、産学連携等を通じて教職員等が企業から取得する情報資産を秘密として保持する場面が増加しており、大学における秘密情報管理への要請はますます高まっています。

 これらの情報のうち、不正競争防止法で定める「営業秘密」に該当するものについては、大学が組織として適切に管理することが重要です。連携先機関等から取得した「営業秘密」を、教職員が不正に使用・開示等した場合には、教職員自身が責任を問われるのみならず、大学の責任も厳しく問われる可能性があります。

 教職員には、営業秘密の不正使用等による法的トラブル、ひいては社会的信用の失墜といった事態を招くことのないよう、自らが適切な情報管理を行うことはもちろん、学生等に対しても、情報の秘密管理に係る適切な指導を行うことが求められます。

○背景

 平成15年に不正競争防止法(平成5年5月19日法律第47号。以下「法律」という。)が改正され、一定の要件を満たした秘密情報(営業秘密)の不正取得や使用・開示に関して、従来の民事的責任(差止め・損害賠償)に加え、刑事的処罰を科す規定が盛り込まれることになりました。また、平成17年の法律改正により、営業秘密の国外使用・開示行為の処罰、一定の条件を満たす退職者の処罰及び法人処罰、罰則規定の法定刑の上限の引上げなどがなされました。その後、平成21年には、営業秘密の不正な取得行為等を原則として刑事罰の対象とすることなどを内容とする法律改正がなされました。

 さらに平成27年には、営業秘密侵害罪の非親告罪化などを内容とする法律改正がなされ、営業秘密侵害行為に対する抑止力の向上が図られました。

 大学においても、企業と連携する際やインターンシップ時に教職員等が知り得る相手企業の情報について、企業から秘密管理を求められる場面が増えつつあります。前述のとおり、平成17年の法律改正では、教職員等が企業からの要請に背いて営業秘密を使用・開示等した場合には、その行為者自身が処罰されるだけでなく、大学に対しても罰金刑が科され得る旨が規定されました。このように、大学が教職員等に対し、適切な情報管理を講じるよう継続的に指導を行うことが一層重要となっています。

*不正競争防止法

 不正競争防止法とは、他人の技術開発、商品開発等の成果を冒用する行為等を不正競争として禁止する法律です。具体的には、ブランド表示の盗用、形態模倣等とともに、営業秘密の不正取得・使用・開示行為等を差止め等の対象としており、不法行為法の特則として位置づけられるものです。

○不正競争防止法における営業秘密の定義

 法律第2条第6項において、営業秘密は「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義されています。

 つまり営業秘密とは、次の三つの要件を全て満たす技術上、営業上の情報であるといえます。

①秘密管理性
 「秘密管理性」が認められるためには、大学が主観的に秘密として管理するだけでは不十分であり、客観的にみて秘密として管理していることが認識できる状態にあることが求められます。また、単に秘密保持契約等を締結しているだけでは十分ではなく、契約で定められた秘密情報管理を組織として実践していることが必要です。

②有用性
 「有用性」が認められるためには、その情報が客観的にみて、事業活動にとって有用であることが必要です。そのため、例えば組織の反社会的な行為などの公序良俗に反する内容の情報については、「有用性」は認められません。「有用性」は、大学の主観によって決められるべきものではなく、広く客観的な判断をもって決定されるべきものといえます。

③非公知性
 「非公知性」が認められるためには、情報が一般的には知られておらず、又は容易に知ることができないことが必要です。世の中の誰もが入手可能な情報については、それがいかに有用であり、また秘密として管理されていたとしても、営業秘密としては保護されません。

○大学における営業秘密

 大学における教育研究、及びこれに付随する諸活動は、営業秘密の定義でいう「その他の事業活動」に該当すると考えられるため、大学が創出・取得・保有する様々な情報も不正競争防止法の定める「営業秘密」の対象となり得ます。

 大学における営業秘密に該当する秘密情報としては、主に以下の2つが挙げられます。

  • ●教職員等が独自に創作した発明等のうち、大学の事業活動上有用な技術上の情報であり、権利化前に秘密管理すべき情報
  • ●産学連携やインターンシップ実施時に、教職員及び学生が知り得る相手企業の営業秘密等

 大学が創出・取得・保有するこれらの情報は、大学が一定の条件の下で適切に管理することにより、「営業秘密」として法的保護の対象とすることができます。

 大学にとって事業活動に有用な情報を評価・選別し、秘密管理を行うべきと判断した情報(=営業秘密)については、自らが適切に保護し、第三者等の不正取得・使用・開示から守ることが重要です。不測の事態が生じた場合に法的措置をとることができるよう、先に述べた秘密管理性の要件を満たした状態で保持することが求められます。

○本学における取組み

 不正競争防止法の諸改正、及び平成28年10月の「大学における秘密情報の保護ハンドブック」(経済産業省)の公表を受け、大学においても、秘密情報の漏えい等を事前に防止し、適正な秘密管理を推進するためのコンプライアンス教育を行うことが求められています。

 本学では、平成16年4月に経済産業省が策定した「大学における営業秘密管理指針作成のためのガイドライン」(平成28年10月に「大学における秘密情報の保護ハンドブック」と改題の上、全部改訂)に基づき、「九州大学営業秘密管理指針」及び「九州大学営業秘密管理規程」を定め、秘密情報の流出防止に係る取組みを実施しています。また平成27年11月には、全教職員による秘密管理の適切な遂行を目的として、技術流出防止マネジメント委員会を設置し、全教職員に対しコンプライアンス教育や内部監査を実施する等、管理体制の強化に努めています。

〇営業秘密に関する教育の実施

 本学では、秘密情報の漏えい等を事前に防止し、適正な秘密管理を推進するためのコンプライアンス教育をe-learningシステムにより実施しております。
 なお、e-learning研修「大学における営業秘密管理について」は秘密情報管理の徹底と継続的な教育を実施する目的で、毎年度、全教職員に受講いただきます。

・教職員用e-learningシステム
 以下のURLよりSSO-KIDでログインし、受講をお願いいたします。
 https://el.iii.kyushu-u.ac.jp/

○営業秘密の具体的管理方法

 営業秘密の適切な管理のため、「営業秘密管理マニュアル」に従い以下の手順で秘密管理を行うことが求められます。

  • (1)秘密情報の評価・選別
     紙媒体、電子媒体を問わず、保有する全ての記録情報について評価を行い、①教職員が創出した未公開研究情報、及び②企業等から取得した営業秘密を特定、選別します。
  • (2)リスト化して組織管理
     (1)で選別した①、②の情報について、ファイル簿にファイルタイトルや保存期間、機密区分等を登録します。
  • (3)機密レベルの表示
     リスト化したファイルについて、記録媒体に「極秘」「部外秘」等の朱書き又は押印(シール可)を行います。なお、ファイル等に個別に秘密表示をする代わりに、記録媒体を保管するケースや施錠可能なキャビネット、保管庫等に「関係者以外閲覧禁止」「関係者以外立入禁止」等の文言を掲示する方法もあります。
     なお電子媒体については、ファイルやフォルダの閲覧に要するパスワードを設定する等、読取制限の属性を付与することが求められます。
  • (4)分離保管
     一般情報とは別に施錠して管理します。また、複製・複写の禁止や、原則として持出を禁止するなどの措置を講じます。電子ファイル・フォルダ等については、アクセスが限定された共有フォルダに保存することも有効です。
  • (5)機密廃棄
     廃棄する際は、後に他者によって復元・開示されることのないよう、復元不可能な形で廃棄します(裁断処理、溶解処理、焼却処理等)。電子媒体については、データ消去用ソフトや磁気データ消去装置等による電磁的記録の抹消や、記録媒体の物理的な破壊等の方法による確実な廃棄が求められます。

○営業秘密の不正使用・開示等にかかる法的措置について

 教職員が、大学の事業活動の過程において、他者から受領する営業秘密を不正に使用・開示等した場合には、当該行為を行った個人に対してだけではなく、個人が所属する法人に対しても法的責任が問われる可能性があります。教職員は、自らが不正を行なわないことはもちろんのこと、大学が加害者として処罰を受ける可能性があることについても重い責任があることを認識しましょう。

<個人に対する処分>
  • *民事上の措置
    ・営業秘密の不正使用行為に対する差止請求(20年の除斥期間)
    ・営業上の利益侵害に対する損害賠償請求
    ・営業上の信用毀損に対する信用回復措置請求
  • *刑事上の措置
    ・営業秘密の不正取得・領得・不正使用・不正開示行為のうち一定の行為について、10年以下の懲役又は2000万円以下(海外使用等は3000万円以下)の罰金
<法人に対する処分・影響>
  • ・5億円以下(海外使用等は10億円以下)の罰金
  • ・社会的信用の失墜

◇出典

  • ・経営産業省産業技術環境局大学連携推進課『大学における営業秘密管理指針作成のためのガイドライン』(平成23年3月改訂)
  • ・経済産業省経済産業政策局知的財産政策室『営業秘密管理指針』(全部改訂:平成27年1月28日)