研究費の適正な使用
研究費の不正使用は、いかなる理由によっても正当化されないものであり、研究者生命を脅かしかねない問題に止まらず、大学の責任が厳しく追及されるばかりか、国民の不信感を招き、ひいては国が推進する科学技術振興施策そのものへの信頼をも揺るがしかねない行為です。
研究に携わる職員は、研究費の性質及び使用ルール等の不十分な理解から生じる研究費の不正使用を防止するためにも、これらのことを十分理解したうえで研究活動を遂行することが必要となります。
○正しく研究費を使用するために
*研究費の定義と性質
研究費とは、研究遂行のための必要な経費に充てるための資金です。研究費には、研究者の研究に対して国や民間企業等から補助・助成されるもの、国や民間企業等から研究を委託され交付されるもの、民間企業等から寄附されるもの、学内の予算から配分されるものがあり、その種類によって守るべきルールが異なります。特に国や独立行政法人から交付される研究費は、それぞれに使用ルールが定められていますので、研究費を使用する際は、そのルールを確認してください。
*正しい研究費の使用
- ・研究費は、研究目的に沿って、公正性及び透明性を確保しつつ、経済的かつ効率的に使用してください。
- ・研究費を使用する時は、予め支出財源を明確にしてください。
- ・研究費の使用が年度末に集中しないよう、研究計画に沿った適切な時期に使用してください。
- ・研究費の不正使用は業者との親密な関係から発生することが多くあり、普段から高い倫理観をもって、節度ある行動をとってください。特に取引業者との打合せについてはオープンなスペースで行う等の配慮が必要となります。
- ・意図せず不正使用を行ってしまうことを未然に防ぐため、使用ルールや事務手続きについてご不明な点がある場合には、些細なことでも構いませんので、お気軽に相談窓口(担当事務部門)へご相談ください。
※研究費の支出に係る手続きについては、このハンドブックの物品等の購入、出張手続の項も参照してください。
○研究費の不正・不適切使用(禁止事項)
研究費の不正・不適切使用(以下「研究費の不正使用」といいます。)とは、研究費を私的に流用又は着服することのみならず、実態のない謝金・給与・旅費の請求、物品の架空請求に係る業者への預け金等の不正、故意若しくは重大な過失による研究費の他の用途への使用又は研究費の交付の決定の内容及びこれに付した条件に違反した使用をいいます。
*研究費を使用するにあたっての禁止事項
- ①カラ謝金(賃金・給与)
実際には作業が行われていないにもかかわらず、大学に虚偽の書類(出勤簿等)を提出し、実態を伴わない謝金(賃金・給与)を支払わせる不正行為のことです。
(例)研究者自らが行ったデータベース入力作業を、指導している学生がアルバイトとして行ったことにして、実態を伴わない賃金を支給させた。 - ②カラ出張及び出張費用の水増し請求・二重請求
実際には出張を行っていないにもかかわらず、大学に虚偽の書類(出張報告書等)を提出し、実態を伴わない旅費を請求する不正行為のことです。また、実際には不要な旅費を請求すること(水増し請求)や他機関から支給される旅費を大学にも請求すること(二重請求)も不正行為となります。
(例)出張を取り止めたにもかかわらず、虚偽の出張報告書を提出して不正に旅費を請求した。 - ③カラ発注、書類の書き換え及び預け金
実際には納品がないにもかかわらず、大学に虚偽の書類(請求書等)を提出し、実態を伴わない物件費を支払わせる不正行為のことです。また、カラ発注でなくとも請求書等の品目等を書き換えることや、カラ発注で捻出した資金を業者に管理させることも不正行為となります。
(例)取引業者と共謀して、納品の実態がないにもかかわらず、大学に請求代金を支払わせた。 - ④目的外使用
研究課題の遂行に直接必要な経費以外に経費を使用する不正行為のことです。実際に作業、出張、納品の事実があったとしても、財源となる研究費と直接関係のないものへの使用(目的外使用)は不正行為となります。
(例)プロジェクト経費で購入した設備備品を、同プロジェクトには用いずに別プロジェクトのために使用した。
*還流行為の禁止
学生等に支給された経費(給与や謝金、旅費)の全部又は一部を、研究室等が回収してプール金とする還流行為は、プール金の使途(私的流用の有無)に関わらず、不適切な行為であるため本学では還流行為を禁止しています。
実態に基づき適正に支給された経費(給与や謝金、旅費)であっても、還流行為によりプール金を捻出する行為そのものが不適切な行為となります。
(例)研究協力者に対し支給された旅費の一部を、研究室が回収してプール金とし、別の旅費の経費として使用した。
*寄附金・研究助成金の適正な経理(個人経理の禁止)
研究費は、研究者個人の発意で提案し、採択・交付されるものであっても、その原資は国民の税金であったり、その資金を職務として使用したりすることから、「研究機関」が適切に経理することが求められています。
競争的研究費等に限らず、財団法人などから研究者個人に直接交付される助成金であっても、職務上の教育研究活動等を奨励するものや、大学の施設・設備を使用するものは、大学が適切に経理する必要がありますので、改めて大学に寄附手続きしてください。
なお、個人経理は、国立大学の評価において厳しく評定されるなど、大学経営に多大な影響を及ぼす不適切な経理であることに十分留意してください。
○研究費の不正使用に対する処分
研究費の不正使用を行った「個人」に対する処分だけではなく、「大学」が資金配分機関等から処分を受けることがあります。
<個人に対する処分>
- ・懲戒解雇、諭旨解雇、出勤停止など、学内規則に基づく懲戒処分を受けます。
- ・文科省等の資金配分機関より、競争的研究費等の交付対象から一定の期間除外される措置(応募制限措置)を受けます。
不正使用及び不正受給に係る応募制限の対象者 | 制限期間 |
不正使用を行った研究者及びそれに共謀した研究者(個人の利益を得るための私的流用) | 10年 |
不正使用を行った研究者及びそれに共謀した研究者(私的流用以外の不正使用) | 1~5年 |
偽りその他不正な手段により競争的研究費等を受給した研究者及びそれに共謀した研究者 | 5年 |
不正使用に直接関与していないが善管注意義務に違反して使用を行った研究者 | 最大2年 |
- ・行為の悪質性が高い場合は、刑事告発又は民事訴訟などの法的措置を講じられることがあります。
- ・不正使用に関与した者の氏名・所属・不正使用の内容等が公表されます。
- ・故意又は重大な過失により本学に損害を与えたときは、その損害を弁償する責任を負います。(弁償責任)
<大学に対する処分・影響>
- ・体制整備に不備がある場合、大学全体に対する間接経費措置額の削減、競争的研究費等の配分停止が行われます。
- ・調査等に係る膨大な時間とコストが発生します。
- ・大学の社会的な信用が失墜します。
○研究費の使用における研究者の権限と責任
研究者は、予算の配分を受けることで「予算管理者」となり、当該予算の管理及び執行に関する事務を委任され、予算の使途の決定などを行います。
研究者は、自らに配分された予算の管理責任者として、善良な管理者の注意をもって財務及び会計に関する事務を処理する義務があります。
また、業者に対する発注連絡等を他の教職員(事務補佐員等)に代行させることも可能ですが、代行者の行為を管理監督する義務と責任が生じます。
○研究費の不正使用を防止するための取組
本学では、研究費を適正に管理するために文部科学省が策定した「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)」の令和3年2月の改正を受け、「九州大学における公的研究費の管理・監査の基本方針」や「九州大学研究費不正防止計画」の改正及び「コンプライアンス教育・啓発活動の実施計画」の策定を行い、研究費の不正使用防止に係る取組を実施しています。
改正ガイドラインでは、ガバナンスの強化、意識改革、不正防止システムの強化の3項目を柱とする新たな要請事項が示されており、これらに対応した体制整備を行い、様々な防止策を実施していますので、引き続き研究費の適正な使用を心掛けてください。
○研究費の運営・管理に係るコンプライアンス教育
研究費の運営・管理に関わるすべての構成員は、本学の不正対策に関する方針及びルール等に関するコンプライアンス教育を受講することが義務付けられています。コンプライアンス教育はe-learningにて受講することができますので、必ず受講してください。コンプライアンス教育の受講に関する詳細については、このハンドブックの「研究倫理教育・コンプライアンス教育」を参照してください。
○研究費の不正使用情報の通報窓口
不正使用についての通報は、次のところで受付けています。
(学内通報窓口) |
監査・コンプライアンス室 |
〒819-0395 福岡市西区元岡744 TEL 092-802-6648 内線:90-6648 E-mail tuho★jimu.kyushu-u.ac.jp (メールアドレスは(★)を@と置き換えてください。) |
(学外通報窓口)
下記URLのホームページを参照ください。
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/contact/compliance
<通報に当たっての留意事項>
- ・原則として顕名によること。なお、通報者は、悪意に基づく通報であると認定されない限り、単に通報したことを理由に不利益な取扱いを受けることはありません。
- ・通報するに足りる合理的な理由又は根拠を示してください。
- ・通報者は、不正使用の調査に対し、誠実に協力してください。
- ・悪意に基づく通報であると認定された場合には、原則として当該通報した者の氏名等を公表します。
- ・悪意に基づく通報など行為の悪質性が高いことが判明した場合は、刑事告発や民事訴訟などの法的措置を講じることがあります。